一言で語れば、私にとっては、過去最高のワールドカップだった。もちろん、ここで言う「最高」の意味は、「歓喜」と言う意味ではなく「苦渋」とか「悲嘆」などを含んだ意味ではあるが。そして、我が国以外については、86年大会以来久々に戦闘能力が充実した国が多数上位進出し、内容面で満足行く試合が多数見る事ができ、かつスリリングな大会だったと思う。贅沢を言えば、86年と異なり、ブラジル−フランスのような「夢の試合」がなかった事と、ディエゴの6人抜きのような歴史的得点がなかった事くらいか。とは言え、「日本戦の悲嘆」+「その後の上位攻防の堪能」と言う意味で、トータルで「過去最高」と語っている訳。もっとも、もう昔とは異なり、「日本がらみでない試合」については「あんなには盛り上がれなくて」(古いか)ではあったのだが。
日本代表周辺における「極めて複雑な感情」については、明日以降色々と書いていこうと思う。その前に1度日本絡み以外のワールドカップ全体についての雑感を連ねてみるのが今日のエントリの目的である。
なお、大会中の拙BLOGの戯言に、あれだけ多数の方々が反応してくれたのは、「書く立場」としては、本当に嬉しかった。改めて、御礼申し上げたい。あの豪州戦後の何とも言えない厳しい状況、私は自分で自分が本当に「馬鹿」だなと思っているが、私の他にも無数に「馬鹿」がいる事が何とも言えず嬉しかった。自分自身がこの多数の「馬鹿」な方々にいかに勇気付けられた事か。
やはり、人生は「馬鹿」な方がトクなのだなと、齢45歳にして改めて認識できた。ねえ、川淵さん、やはり「馬鹿」な方がトクですよね。おっと、貴方の場合は「馬鹿」の意味が違うのですけれど。
いかん、いかん、この話題は明日以降にします。
さて、「あんなには盛り上がれなかった」日本以外の議論に戻ります。
実に重厚なベスト8だった。あくまでも偏見に基づく戦闘能力分析だが、ベスト8国をランキングを分けしてみた。
特Aクラス:ブラジル、アルゼンチン
Aクラス:イタリア、フランス、ポルトガル、イングランド
特Bクラス:ドイツ
Bクラス:ウクライナ
この特Aクラスの2ヶ国が準々決勝で敗れてしまったものの、ベスト4に勝ち残ったチームが全て充実していたので、逆に準決勝以降が緊迫して競り合った試合になった。
例えば90年のベスト4(西ドイツ、アルゼンチン、イタリア、イングランド)も顔ぶれだけ見ると、中々だったが、西ドイツは序盤から飛ばし過ぎて終盤青息吐息、アルゼンチンはディエゴ含めて負傷者山積に加え赤黄を多数食らい出場停止者だらけ、一番バランスの取れていたイタリアはビチーニ氏の珍采配(準決勝で好調のロベルト・バッジョをスタメンから外す)、イングランドは攻撃の中核ガスコインとプラットが若過ぎた、と、今回の4強に比べるとそれぞれ大きな問題を抱えていた。
今大会の4強はそれぞれ悩みを抱えながらも、バランスが取れていて、しかもいずれの監督も駆け引きに富む妥当な采配。もちろん、ブラジルとアルゼンチンが残ってくれていれば、それに越した事はなかったのだが、まあ贅沢を言っては罰が当たると言う事だろう(いや言うまでもなく、一番嬉しいのは日本が...)。
今大会を一番盛り上げたのは言うまでもなくドイツ。あの大会が始まった頃はどうしようもなかったセンタバックが、イタリア戦でピルロが仕掛ける攻撃をギリギリで食い止めるのは、正直感動した。野心的で素質あふれる若者に場を与える事がいかに有用な事か、改めて認識させられた。
そして早め早めにサイドに拠点を作り、そこから切り返してミドルシュートを狙ったり、強いアーリークロスを入れたりする攻撃を執拗に繰り返す。この国は伝統的にいわゆるセンタフォワードだけは必ずよい選手がいるので、やや単調でも愚直に攻撃を繰り返す事で好機を作る事ができる。
2年前に誰も引き受け手のいなかった難しいポストを受け入れて、ここまでの実績を上げたクリンスマン氏の手腕、恐るべし。もっとも、実際に差配をしていたのは、他の人と言う情報もあるけれど。
ただ、32年前のオヴェラート、ネッツアー、グラボウスキー、16年前のリティ、へスラー、トーンと言った技巧派の選手は、この国にはもう登場しないのだろうか。
フランスのコンディショニングは実に見事。大会終盤の体調が最もよかったのはフランスだった。1次リーグのもたつきを思い起こすと、決勝進出に向けて大会終盤にピークを持っていく事にしていたのは明らか。結果的に決勝進出できた訳だが、スイス、韓国と同じグループで、1次リーグを落として臨むのは相当なギャンブルだったと思うが、彼らは賭けに勝ったわけだ。
サイドバックとしてもセンタバックとしても、歴史に残る存在のテュラン。思えば、プラティニ時代のボッシとバチストンも若い頃はサイドバックで活躍し、晩年センタバックとして機能した選手だった(テュランの場合は、若い頃は両方やっていたのだが)。この国は彼らのようなオールラウンドな守備者を育むノウハウを持っているのだろうか。強化の形態を真似するのもよいが、これらの歴史的名手の具体的な育成方法を学ぼうとする方が大事に思えるのだが。考えてみれば、過去30年、日本ではサイドバックとしてもセンタバックとしてもトップレベルの存在感を示した選手は、落合弘、加藤久、堀池巧など数少ない。
正直言って、ポルトガルがここまで魅力的のみならず、強いとは思っていなかった。ワールドカップでの実績の少なさに疑問を抱いていたからだ。
そして、今大会改めて思ったのだが、我々が目標とすべきはポルトガルのような技巧的でしっかりビルドアップするサッカーではないか。他のいずれの上位国と異なり、フィジカルで押し切るようなタレントがほとんどいないのが、この国の魅力。後方の名手たちも(オランダとの大混戦を除いては)実にフェアで、(肉体能力に頼らない)知的で丁寧な守備を見せてくれた。例えば内田−青山−福元−水本が、厳しい実戦経験を積む事で、このレベルの4DFを目指してくれると思うのは贅沢だろうか。あ、もちろん谷口がコスチーニャです。
そして、ポルトガルは(レベルは相当異なっているかもしれないが)ストライカ不足にお悩みのようだった。しかし、彼らはそれを現実的に捉え、フェリペ氏の魔術的采配を受けながら、慌てることなく丁寧に攻め続けた。最前線のタレントが足りないなら足りないなりに。日本の評論家たちが、ポルトガルが縦にボールを入れない事を再三批判していたが、縦に入れたら取られて逆襲されるリスクがあるのだったら、入れない選択肢もあると思うのだが。
まあ、戯言はさておき、本当に魅力的なチームだったと思う。生でこのチームを観る事ができなかった事を悔いる。
強豪チームが順調に上位に進出した中で、序盤の最も大きな番狂わせはチェコの敗退だろう。実は私が参加したツアーは、大会序盤はプラハに滞在した。そして、私がプラハに着いたその時間帯、チェコはガーナと戦っていたのだ。バスの運転手が、我々の荷物を積みながら、祈るようにラジオを聞き、試合が終了した時に本当に悲しそうな表情をしていたが印象的。もっとも、その数日後に我々も同様に悲しい表情をする事になったのだが。コーラとバロシュの体調が整わなかったのが何より痛かったが、直接的な敗因となったのはガーナ戦の開始早々の失点。あれで全てのリズムが狂ってしまった。
どうしてこの国は伝統的にワールドカップで弱いのだろうか。欧州選手権には強いのに。ちょうど30年前、欧州選手権決勝でPK戦でベッケルバウアとフォクツがいた当時の強い強い西ドイツをPK戦で破って、優勝した事もあるというのに。
ともあれ本題とは全く関係ないが、プラハと言う都市は本当に美しいところだった。
宿敵韓国については、さすがに1度独立したエントリで語りたい。
韓国同様ライバルのイラン。
この国の問題はしごく単純。アリ・ダエイに首輪をつける事ができなかったと言う問題につきる。初戦のメキシコ戦、全く動けないダエイを起用し続けなければならない(おそらく政治的な)チーム事情で完敗した。「せめて本大会で(引退が近い)ダエイの得点を見たい」と思いながら、イランの応援をしたのが、8年前のフランス大会だったのだ。あれから8年、戦い続けるダエイは見事だし(昨年の横浜で中澤を出し抜いてPKを奪取したプレイは絶品だった)、尊敬に値する。しかし、ワールドカップで中軸としてプレイするのと、現役でがんばり続けるのは全く別な話のはずだ。
当方も諸事情で問題山積ではあるが、イランがしっかりしてくれなければ、アジアのサッカーの発展はない。善処を期待したい。
次回からアジアで戦う豪州。
決して弱い敵ではないし、優れた選手が揃っている。ただ、悔しいし情けないのは、あのような単調なロングボール戦法にやられた事。特にあの後半戦は、豪州の単調な攻撃をほとんど終了間際まで、しっかり押さえていただけに、本当に悔しい。あのような単調な攻撃が一切通用しないのが、ワールドカップのようなビッグゲームのはずだったのだが、監督がそのレベルに達していないとこのような事が起こると言う珍事とも言えるか(誤解をされては困るが、ジーコ氏の無策は「大柄なDFを揃えなかった事ではなく、前線の選手の疲労を放置した事」である)。
当然の事ながら、豪州は他国との試合では、しっかりとビルドアップするサッカーを見せていた。いずれにしても、彼らのアジアへの参画は、レベルアップの面からは大歓迎である。ただし、問題は(当方も韓国も同様だが)多くの選手が、欧州で活躍している現状で、いかにアジアの大会に巧く参加するかだな。
ウクライナとスイス。
以前も触れたが、この両国に対しては、とにかく直接の羨望と言うか、嫉妬と言うか。もう少し、ほんの少しの工夫をすればあそこまでは行かれるのではないかと言う期待、その差が想像以上に大きいのではないかという恐れ、何とも複雑なのである。ともあれ(試合前から何となく予想できたのだが)、ガップリと守り合っての0−0からのPK戦。2次トーナメントで、あのような日本代表を応援したい。PK戦後、隣に座っていたスイス人のオッサン。これ以上の悲しみはないと言った充実しきった表情。席を立つ私と握手をした瞬間だけは、絶望の底からの笑顔を見せてくれた。ウクライナの宿舎は、私の木賃宿のすぐそばのヒルトンホテル。試合後ホテル前で選手たちの帰還を待つ年配の紳士。もう、人生でこれ以上の喜びはないと言った最高の表情。どちらにしても、ああ羨ましい。
延長終了直後、PK戦を迎える疲れ切った両軍の戦士たちを癒すシャワーのように流れるケ・セラ・セラ。4年後、川口のために歌いたい。
アルゼンチンの自滅。
これに関しては、以前触れた通り。ペケルマン氏はややドイツを舐めてしまったのか、不可解な交代で自滅してしまった。それにしても、このサッカー大国は、94年以降、常に大会最強の1つと思われるチームを送り込みながら、どうしてもベスト8の壁を破れていない。とても不思議な事だ。他国に類を見ない各ポジションにバランスがとれた選手層の厚さを誇るのに(たとえばブラジルだとCBの層が薄かったりするのだが)。
ただ、86,90年のビラルド氏があまりに現実的過ぎたせいか、ここ最近は理想化肌の監督が続いたのが拙かったのだろうか。ペケルマン氏が辞任するとの噂だが、いよいよ次回はあの狡猾な守備網を築き上げるカルロス・ビアンキ氏が登場するのだろうか。
もう1つ、優秀な選手が多すぎて、メンバが絞りにくいと言う問題があるのかもしれない。78年に地元で優勝した時は、欧州で活躍していた選手はケンペス1人であとは国内の選手(今ほど多くの選手が欧州で活躍していた訳ではなかったが、それでも欧州在籍の選手で優勝を狙えるチームがもう1つできると言う話もあった)でチームを作った。86年には、ディエゴに合わせる事ができる選手を並べ、当時世界的なストライカだったラモン・ディアスなどをメンバから外した(まあ、この時のチームはビラルド氏が守備を組織し、攻撃は「ディエゴ、点を取ってくれ」で済んだのだけれども)。今回も実に豪華なベンチとなっていたが、メッシやサビオラやアイマールが、心底その立場を納得していたかどうか。
そしてブラジル。
このチームの問題点は明らかで、両サイドバックが年老いていた事につきる。カフーにしてもロベルト・カルロスにしても「ここぞ」と言う重要なポイントで前進する判断は見事だったが、その頻度はあまりに少なすぎたし、当然ながら戻るのも遅かった。考えてみれば、4年前でさえフェリペ氏は大会序盤に3DF1ボランチ、あるいは2CB2ボランチで前線に3Rに加えてジュニーニョ・パウリスタを置く布陣を狙っていた。しかし、両翼のこの2人の攻守の切り替えの遅さを嫌い、準々決勝のイングランド戦からは、ジュニーニョを外し3DF2ボランチに切り替え、優勝に向かって行った。あれから4年経ち、当然この2人は一層衰えた。もはや、2CB2ボランチの両翼を託すのは無理があったのだ。
同じくロビーニョを中軸に使わなかったのも失敗だった(負傷がちだったと言う情報もあるが、日本戦にせよ、終盤起用されたフランス戦にせよ、調子はよいように思えたが)。ロナウドとアドリアーノの2トップでは、2人とも弾を供給してもらってのストライカ。あまりよい組み合わせとは言えなかった。また、多くの報道で太り過ぎロナウド否定論があったが、ロナウドを外してアドリアーノと言う選択肢も現実的とは思えなかった。2人のストライカとしての瞬間的な鋭さと技術の精度のは大きな差がある。ガーナ戦、ロナウドが世界新記録を樹立した直後、アドリアーノも同様のスルーパスから抜け出した場面があったが、瞬間のボール扱いのミスからGKを抜ききるのに失敗していた。つまり、割り切ってアドリアーノを外しロビーニョで行くべきだったと思うのだ。
そう考えてくると、日本戦のメンバ構成こそ、「史上最強」のメンバだったのではないかと思えてくるではないか。
同点時のロナウジーニョのサイドチェンジは、右サイドに走り込むシシーニョの頭にピタリ、そしてそのサイドチェンジが飛んで中澤がそのボールを目で追った瞬間、ロナウドがヨタヨタと反対側にポジションを移した。あんなもの、どうやって防げと言うのか。
2点目のジュニーニョ・ペルナンブカーノのミドルシュート。川口の後方で応援していた私は、川口同様ボールの軌跡を追う事ができなかった。一体、どのような変化だったのだろうか。8年前のクロアチア戦のゴール裏、シュケルが1度反対側を向き突然振り向いてのシュートに、川口同様に軌跡を失ったのを思い出した。8年間で2度も、ワールドカップ本大会で、川口と共に巧妙極まりないシュートの軌跡を見失う事ができるとは。何という幸せなのだろうか。
今回のブラジルの、本当の美しさや凄まじさを味わう事ができたのは我々だけだったのだ。
で、イタリア。
まあ、カンナバーロにつきる訳だが、本当に素晴らしい守備者だ。8年前のフランス大会で、その異様な粘着質のマーク振りに感心させられたが、その後経験を積み、マークの強さをそのままに、危ないところを嗅ぎ分ける読みのよさを身につけた。攻撃サイドとしては、カンナバーロを外に引き出した上で攻め込みたいところだが、前後左右を固めるガットゥーゾの運動量と、ザンブロッタ、グロッソの知的なポジションにより、そのような場面はほとんど見る事ができなかった。いわゆるマンマーカタイプのストッパとしては、史上最高の選手の1人と言っても過言ではないだろう。
そして、その後ろにプッツォンがいるのだから。こちらはこちらで、イタリア史上最高のGKの座をゾフから禅譲されたと言えるのではないか。
ここぞと言う場面で大活躍したグロッソだが、このポジションはこの国にとって非常に重要な意味を持つ。過去約40年間のほとんどを3人の偉大な先達でまかなってきた伝統を持つのだから。ここに五輪で痛い目にあったモレッティが来るかと思っていたのだが、グロッソもなかなか。今大会だけでは何とも言えないが、どこまで成長できるのか。
そした、ザンブロッタとガットゥーゾ。もう、何と言うか凄い。今野とザンブロッタ、明神とガットゥーゾ、2人には己と、この世界のトップとの差を冷静に検討して欲しい。そいて、一方でわが国においては、彼らを大事にする文化の形成こそ、この偉大なサッカー国に近づくための方法ではなかろうか。それを把握した上で、次に中村憲剛なり阿部勇樹なりとピルロの差を議論すべきではないか。
お遊びとしてのベスト11。好きな選手が後方に多かったので、3DFでしかもアンバランスな布陣になってしまったが、ご容赦を。あの豪州戦の、図に乗った飛び出し失敗がなければ、GKは川口にしたかったのだけれども。
プッツォン
カンナバーロ テュラン メイラ
ミゲル ガットゥーゾ ヴィエラ ザンブロッタ
リベリー ピルロ
クローゼ
ボビー・ムーア、カルロス・アルベルト、ベッケルバウア、パサレラ、ゾフ、ディエゴ、マテウス、ドゥンガ、デシャン、カフー、そしてカンナバーロ。世界チャンピオンになるための必要条件に、「絵になるキャプテン」が挙げられる事が、改めて認識された今大会であった。
