blog武藤文雄のサッカー講釈

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■ とりあえず川淵会長について

 そろそろベガルタの苦闘に専念したいのだが、ワールドカップがらみで書きたい事がまだまだあるので、社会復帰はもう少し先と言う事で。

 日本代表新督就任記者会見をTVで観ていて何とも悲しくなった。片やサッカーの全てを知り尽くしているかのような東欧の名将、こなた我が国屈指の実績を持ち、将来の期待あふれる若手指導者(「現役時代の彼のプレイ振りにについて近々...」と予告を振ったりして)。最高に近いのではないかと思わせる組み合わせ、本来であれば近い将来に向けて希望と期待に満ち溢れた記者会見になるはずなのに。
 真ん中にすっかり人相が悪くなってしまった川淵会長。かつての歯切れのよい口調ではなく、何かおどおどしたような態度。表情も何かしら硬い。20年近く昔の豪雨のJSL、百人ちょっとしか観客がいない中で氏の隣で立ちながら観戦した古河の試合。私の誘導尋問に乗せられて、日本サッカーの将来に向けて真摯に情熱を持って、色々な事を語ってくれた時の精悍な表情はもう帰ってこないのか。

 川淵会長については、ジーコを代表監督に選考した事(もっとも、選考の際にいかほどの責任があったのかがグレーな事を理由に逃げ切ろうとしているようだが...これに関しては別に述べます)、あるいは、一連の広告代理店との癒着(もっとも、巨額のカネに巻き込まれつつある日本サッカー界ゆえ、氏のみがその圧力下に置かれている訳ではないのだが...これに関しても別に述べます)、さらにはドイツでの敗戦の反省をなおざりにしつつある事(もっとも、「なおざりにする事」自体が己の責任になる事を理解できていない事が悲しいが...これに関しては書きたくないけれどたぶん別に述べます)が、再三問題視され、協会会長を辞するべきと言う世論が多い。これら3つの問題は、それぞれ大変大きな問題な事は確かだ。

 しかし、これらのような「議論の余地がある」問題以前に、氏は既に日本サッカー協会のような公的な機関のトップの資格がない事を、自ら外部に示してしまった。言うまでもなく「次期代表監督候補者失言問題」である(以下の文章は、ジェフが公式に発表したこの文章が真実である事を前提にしている)。
 このジェフの公式発表文書によると、川淵会長は自分の組織内の非常に重要な人事について、比較的近しい存在の別組織に対して、当初の合意事項から嘘をついて(ここでの「嘘」とは、ジェフサイドは契約が切れる07年当初から契約するのが前提と認識していたのに対し、ジェフに事前宣告する事なく06年夏場からの契約を前提にした事)、ヘッドハントを行おうとしていた。その事の是非も論外(今回の前例により、数年前にグランパスがジェフのベルデニック監督を強奪したのを契機に、日本協会主導で作られた監督の引き抜き防止規定が有名無実化した、今後日本協会及びその下部組織のJリーグは「監督引き抜き」が起こっても、実効的な指導ができない事になる)だが、一万歩譲って背に腹は変えられないと妥協したとする。
 そうだとすると、この人事交渉は極めて高度でギリギリのものとなる。その最中に、その事を記者会見で喋ってしまう事自体が信じ難い。この失言が、わざとか、わざとではないか、は問題ではない。「重要なポストのトップシークレットの人事問題」を外部にペラペラ喋ってしまうような人間を、誰が信用するだろうか。交渉そのものを頓挫させるリスク、もれてしまった事で一層コストがかかるリスクなどは当然の事として。
 日本サッカー協会とは、100億円以上の予算を預かり、FIFAから唯一の国内サッカー統括団体と公認された、完全な公的団体であり、そのトップの責任は大変重い。しかし、上記のように「絶対もらしてはいけない事」をもらしてしまった人間を、誰が信用するだろうか。もう誰も、川淵会長には「秘密にしなければならない」重要事項を話そうとはしないだろう。このような失態を1度でも犯した人間は、大きな組織の上位職につく資格はないのだ。つまり、「事の成否」や「過去行動の妥当性」と言った議論の余地なく、川淵会長は自らその能力が無い事を示してしまったのだ。 
 もっとも、マスコミ(スポーツ関連のマスコミではなく社会関連のマスコミ)がそのような糾弾をしないの
は、マスコミを中心とする日本社会が「スポーツ団体のトップなんてその程度だろう」と思っているからで、それはそれで少々寂しいのだが。

 さらにいくつか付帯的な議論を。
 川淵氏の失言以降、幾度かテレビでオシム氏なりジェフと交渉する田島技術委員長の映像がTVで流れた。その度に私は一層悲しくなった。日本協会側のミスで、オシム氏にもジェフにも多大な迷惑をかけている状況下で、田島氏はニヤニヤと笑っているのだ。「自分方に非がある際に歯を見せては絶対にいけない」と言うのは、ビジネスの基本中の基本。その常識すら持っていない人間が、上位職にある事の衝撃。
 とどめは、上記記者会見での川淵会長の言葉。
「今日、イビチャ・オシム監督と日本代表の監督としての契約をできることを非常に嬉しく思っています。その反面、千葉のチーム関係者やサポーターの皆さんには色々なご心配や、納得の行かないこともあると思いますが、オシム監督を日本代表チームに送り出してよかったと思える日が早くくることは間違いないと思っています。」
頼むよ、広告代理店。いくら川淵会長が判断能力がないにしても、台本くらいは書いてくれよ。

 以上論理的にまとめてきたが、以下は感情論。

 私はあなたの選手時代を知らない。知っているのは70年代半ば古河の監督時代からだ。その時あなたは、クライフオランダに感銘を受け、永井や奥寺による運動量流動的サッカーを見せてくれた。その後は日本協会の強化畑に移ったあなたは再三豪腕を振るう。モスクワ五輪予選敗退後、大黒柱の前田秀樹を残し日本代表を大幅に若返らせた。当時の監督渡辺正氏が病気に倒れた際は短期的に代表監督を務め、技巧的な選手に中盤を託す(当時の日本としては)画期的なサッカーを見せた。そして、92年には、代表監督にハンス・オフト氏を招聘する鮮やかな手腕を見せた。同時期にはJリーグのチェアマンとして、中京地方にある大手メーカを説得する事に成功した事を皮切りに、各クラブが企業の冠に頼らず、地域名を前面に押し出す経営をする事を強力に推進した。結果として、日本中津々浦々でトップレベルのサッカーを毎週のように愉しむ文化が定着した。あなたの過去の日本サッカーの貢献は最高級のものがあるのだ。
 まだ間に合う。今ならば、日本サッカー界の偉人として、終生に残る評価を得た人物として記憶される事が可能だろう。でも、もう時間はない。居座れば居座るほど、状況は悪くなる。繰り返すが、今しかない。

 私は国立競技場で、あなたに「ヤメロコール」はしたくないのだよ。

投稿時間 2006年07月22日
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