blog武藤文雄のサッカー講釈

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■ 松田と上野は素晴らしかったのだけれども

 アウェイゴール2倍ルールの面白さの1つに、ある局面に入ると「同点」と言う概念が突然なくなる事がある。この日も、前半比較的早い段階でマリノスが先制した時点で、2試合合計で1−1と「同点」状態になると、試合は膠着状態に陥った。ところが、後に、80分近くにアントラーズが1−1にした瞬間に、一気に均衡が崩れる。この瞬間以降、「同点」と言う概念はなくなり、マリノスがもう1点とって2−1でこの試合に勝ってもアントラーズの決勝進出、もしこの短い残り時間にもう2点とって3−1にすればマリノスの決勝進出、となる。この時間帯までの両軍の上品な守備的なサッカーと、これ以降のマリノスの下品なパワープレイとアントラーズのこれまた下品なカウンタ。それぞれの対比が、何とも言えぬ味わい深さだった。

 ともあれ、まずは「同点」状態に戻ろう。難しいタイトルマッチだけに、「同点」以降は両軍とも実に慎重な試合が継続した。やや涼しくなってきたとはいえ、7月のリーグ再開以降、2試合/週のペースが継続、両軍とも疲労の色が濃い状況、「勝ちたい」よりは「負けたくない」以上、仕方が無い事なのだろう。このいかにも上品な守り合いは、それはそれで愉しめた。

 それでもホームのマリノスは「同点」前ほど無理はしないが攻勢に立つ。素晴らしかったのが上野と松田。
 上野は1トップ2シャドーの後方から、あの独特のトロトロした前進でゲームを組み立てるのだが、アントラーズのボックス型の4MFがこの上野を巧く掴まえられなかった事もあり、幾度も好機を演出した。上野の先制点も、ドゥトラのクロスから始まる攻撃をアントラーズがかろうじてしのいでクリアしたところで、ペナルティエリア外で全くのフリーでボールを受け、狙い済ましたミドルシュートを決めたもの。この選手の、やる気があるのだないのだかわからない態度は大好きだ。そして、今日は久々に上野のトロトロを堪能できたと言う事か。
 そして、松田。この日よかったのは、後方からのロングフィード。両翼のドゥトラと隼磨、あるいは最前線の大島に、再三30m級のロングパスをピタリと合わせていた。上記した上野の先制点も、松田からドゥトラへの見事なロングフィードがきっかけだった。
 それでもマリノスは突き放せなかった。要因は2つあると思う。
 1つは久保の出場停止で1トップを大島に託した事。1トップ2シャドーの場合、1トップは後方からボールを受けた時に「前に行くぞ、突破するぞ」と敵DFに脅しをかけられないと、敵CBは安心して後方から進出する選手を見る事ができる。これは大島には少々荷が重かった。この日坂田は控えにも入っていなかったから負傷だったのだろうが、それならば吉田をもっと早い時間にFWに投入して、大島と並べて2トップにした方がよかったのではないか。
 もう1つは隼磨の不振。この日はいつもの切れ味の鋭さが全く見られなかった。押し上げてせっかくよい位置で前向きにボールを受けても勝負しない。えぐらないで、アーリークロスばかりを狙っていた。一緒に観戦していたマリノスサポータの友人が「縦に行かなければ、いつまでも加地を抜けないぞ!!!」と野次を飛ばしていたが、全くその通り。マリノス自慢の両翼が、この日はドゥトラの片翼になってしまっていた。まあ、7月のシーズン再開以降、代表の地獄の中東遠征を含めて出ずっぱり。さすがの鉄人隼磨にも、「疲労」と言う概念がある事がわかったと、前向きに考える事にしようかと。

 一方のアントラーズ。こちらは苦しい戦いだった。「同点」前に逆襲速攻から深井のシュートがバーをたたいた場面。「同点」後、一度だけ右サイドから野沢と深井の仕掛けから完全に右サイドを突破し、柳沢がゴール近くからシュートを外した場面(この時点では「どうして、この男はこうなってしまうのか」と思ったのだが)など、散発的な攻撃はあったが、チーム全体がいかにも重かった。先週末に、エスパルスを相手に見事な試合を見せた疲労が残っていたのかもしれない。事実3回の選手交代のいずれも、戦術的交代と言うよりは、疲労した選手、負傷気味の選手を、新しい選手に代えたと言う印象が強い。とにかく、「負けない事」を主眼に、ただただひたすら我慢を重ねる展開を選択せざるを得なかったと言う事か。
 面白かったのは青木のCBとしての充実。この選手は、MF後方から挙動を開始する強いキックを蹴る事ができるのが特長。五輪代表時代に、適正があるとは思えない3DFの中央をやらされ、極度の不振に陥らされた上で、五輪代表から落とされたのはそう昔の事ではない。ところが、この日は強さを発揮する岩政の横で巧みなカバーリングを見せてくれた。4DFならば、この男をCBに使う事ができるのが判明した。
 もう1つ。増田が、実によい読みを再三見せてくれた。元々は中盤でも前の方に使われる事が多かったが、この日はしっかりとボールを拾い、丁寧に前線につないでいた。もう少しボールを呼び込む能力を高め、ボールに触る頻度が増えれば、遠藤のような選手になれる素材かもしれない。五輪代表候補のこのポジションは、既にJで谷口、枝村が圧倒的な存在感を見せているが、是非ここに増田が割り込んでもらいたいものだ。

 勝負は全く予想外なところからついてしまう。アウトゥオリ氏が上記のように我慢を重ねる采配だったのに対し、水沼氏は前向きな采配。精力的に動いていた奥に代えて若手技巧派の狩野を投入、さらに大島に代えてハーフナーを起用した。疲労したアントラーズ守備陣に狩野の技巧を活かし、さらにハーフナーの高さで突破口を開こうと言う考えだったのだろう。
 ところが、ハーフナー投入直後、マリノス陣近くのFK、あろう事かハーフナーは完全に集中が切れたかのようなプレイで、マークすべき柳沢を全くフリーにしてしまう。柳沢は落ち着いたヘディングで確実に決めた。マリノスにとっては悔やんでも悔やみ切れない失点。

 冒頭に述べたように、「あと2点」が必要になったマリノスは、当然のように松田がトップに上がり、パワープレイに活路を見出そうとする。そして、ハーフナーが恐るべき打点の高さで落としたボールに、山瀬がからみ、松田が転倒しながらこぼれ球に足を合わせる。すると、松田の執念が捉えたボールは3名いたアントラーズ守備陣の誰にも触れずにゴールを横切るような軌跡を描きながら、コロコロと枠内に入る。残り8分、もう1点必要なマリノスは、さらにパワープレイを狙う。そして、曽ヶ端が飛び出した無人のゴールに松田がロブのシュートを狙い僅かに枠を外す逸機などがあったが、どうしても決められない。ここは水沼氏は、役割を明確に指示すべきだった。たとえば、左からはドゥトラ、右からは上野がクロスを狙うとか、ハーフナーの後方に空中戦要員をもう1枚配するとか、松田は必ずハーフナーの反対サイドに入るとか。そのような指示がないものだから、中途半端に栗原が前に出てしまい、交代出場した吉田が飛び込もうとする空間を消してしまったり、松田がサイドに開いてしまったり、ギクシャクしたまま試合終了。

 野次馬としては、80分間の緊張感と、10分間の興奮を愉しめた面白い試合だった。でも、マリノス関係者は悔しかろうな。

投稿時間 2006年09月22日
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