試合前にも書いたが、ワールドカップの決勝戦はここ最近凡戦が多い。80年代以降の決勝で、内容もあり面白かった試合と言えば、94年のブラジル−イタリアくらいか。もっとも、この試合は0−0のままPK戦になってしまったのだが。この決勝戦は、両軍の駆け引きのメリハリという意味では、12年前を凌駕する高度で内容のある戦いだった。
開始早々のフランスのPK。その瞬間のテレビ映像を見る限り私もPKだと思った。ところが、執拗に流されるVTR映像を見ると、見事にマテラッツィは身体をよけていた。最終的にイタリアが優勝したから、笑い話で済まされるが、もし結果が異なっていたら、イタリアのマスコミを中心に大騒ぎになっていただろう。マテラッツィのよけ方は、さすがにイタリアの一流ディフエンダと感心させられるものだったが、マルダの方が一枚上手だったと言う事か。
これだけダイビングが横行する現状を考えると、本当に審判は大変だと思う。しかも、様々な角度から映されたVTRが、それぞれの判定の妥当性をえぐるように検証してくる。トップレベルの試合での、PKや否やと言った煮詰まった判定時は、主審は攻守双方の動きに加え、それぞれの選手の実績、相対関係などの過去情報を含めて判断しているのだろうか。
準決勝で、サイドネットぎりぎりに強烈なキックを決めているジダンを考えれば、プッツォンはそちらに飛ぶしかなかったろう。それをわかっていて、逆に浮いたボールを蹴ったジダンの勝ち。もっとも、バーに当たり微妙なコースに飛んだのは、少々のコントロールミスだったのだろうが。
データに基いて動いたGKの逆を突いて開始早々のPKが決まるとは、32年前の決勝のニースケンス対マイヤーを思い出したりして。あの時はインステップキックでど真ん中だったな。
フランス先制後は、試合はやや落ち着いた。前半はイタリアペース。ここ2試合猛威を振るっていたジダンのドリブルを、2人が絡む事で抑える守備の巧さはさすが。そして、CKからマテラッティが同点弾を決める。この場面と言い、前半終盤トニがバーを叩くヘディングを放った場面と言い(ピルロのショートコーナを絡めた仕掛けが巧いと言う考えもあろうが)、長身の空中戦要員にあそこまでフリーでやられるのは、フランス守備網もまずかろう。とは言え、両軍の守備の強さは相変わらずで、前半は1−1で終わった。
後半開始早々、フランスが攻勢に出る。これは年齢的な問題があるフランスとしては当然の事で、早めに勝負に出て再度リードし、テュランとヴィエラを軸に守りに入る事を狙ったものだろう。
これまでフランスの攻撃はリベリーの右サイドを軸にしていたが、この日は左サイドのマルダの調子がよく、後方のアビダルもよく押し上げ、こちらからの攻め込みが目立った。結果的にザンブロッタが思うように前進できなくなり、一層フランスペースになる。これはイタリアにとっては完全な誤算であり、ドメネク氏が見事だったと言う事になろう。
ここでヴィエラの負傷交代、これまで中盤を支えていたこの名手の退場はフランスにとっては非常に痛いと思われたが、交代で登場したディアラがまた素晴らしいプレイを見せた。このディアラの好調はこの日の1つのポイントとなった。延長終了まで、ディアラの活動量と強さはフランスの中盤を支え続けたからだ。逆にヴィエラが負傷しなかった場合、連戦の疲労を抱えながら最後の最後まで、ディアラほど機能したかどうか、想像するのは愉しい。
イタリアは、ここでほとんど機能していないトッティを諦め、出場停止が解けたデ・ロッシを投入し、ピルロを前に上げる。結果的にトッティが今大会行った仕事はあの豪州戦のPKだけだったのか。同時にイアキンタをペロッタに代えアビダルを押し下げる。この交代でイタリアは一時ペースを取り戻す。このあたりはさすがリッピ氏。
ところが、このイタリアペースは一過性のものだった。前に出る事でかえってピルロがボールに触れなくなってしまったのだ。さらに最前線のトニが全くテュランとギャラスに勝てないので、逆襲がほとんど機能しない。この時間帯になってくると、さすがのイタリアも中盤でジダンを止められなくなってくる。ジダンが中盤で1枚は必ず外せるので、ますますフランスは好機を作る事ができる。さらにベテランぞろいのフランスのスタミナが切れない(これは上記のディアラの存在が大きかった)。
無論、カンナバーロとプッツォンは完璧で、イタリア守備陣は崩れないが、止める場所は次第にイタリアゴール近くに下がってくる。そして、フランスペースは継続したまま延長戦に突入した。
延長突入前に、リッピ氏はデル・ピエロを投入していた。ところが、この名手が全く機能しない。幾度か後方から好フィードを受けたが、コース取りがよくなく力強さも感じられない無理なドリブルで簡単にボールを奪われてしまう。考えてみれば、準決勝でもこの男の調子はあまりよくなかった。ほとんど有効なプレイができずにいたところで、120分+に2点目を決めただけだったのだ(しかも、この得点の価値はそれほど高いものではなかった、見ている野次馬としては興奮したけれど)。トッティにせよ、デル・ピエロにせよ、本調子にほど遠い大会だったと言うか、ロベルト・バッジョの偉大さを思い起こさせたと言うか。
前線に収まらないイタリアは攻め手を失い、相変わらずフランスの攻勢が続いた延長戦。そうなってからの守りの強さが、イタリアの持ち味なのだが、さすがにあれだけ押されると少しずつギャップができる。
そして、延長前半終了間際、ついにジダンがカンナバーロを破る。中盤で落ち着いて前を向き右に展開、その折り返しに対し自らトレゼゲとアンリの(懐かしの2トップだ)の中間に飛び込み、(8年前ブラジルを屠ったCKへの飛込みを思い出させる)見事なヘディングシュート。しかし、イタリアにはカンナバーロのみならずプッツォンがいた。
延長後半、ジダンとカンナバーロと言う稀代の英雄が、この最高の舞台で攻め切るか、守り切るか。「矛盾」と言う言葉を具現化したような、攻守それぞれの「真のスーパースター」同士の対決。決勝戦でこのような対決が堪能できるのは、32年前のクライフ対ベッケルバウア以来ではないか。その対決はいよいよ終幕を迎えようとしていた。
この日、選手入場口にはワールドカップが鎮座されており、FIFAのテーマををBGMにした両軍の選手入場を一層盛り上げる見事な演出となっていた。しかし、この鎮座が、その約2時間半後に、あそこまで悲しい舞台効果を演出する事になるとは。
