blog武藤文雄のサッカー講釈

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■ 名波とラモス

 今シーズンは大型の移籍が多い。その中でも、独特の怪しげな愉しさをかもし出している移籍劇が、名波のヴェルディ加入である。もっとも、長く名波と共にジュビロ栄光時代を支えてきた服部が同時加入した事で、いくばくか「怪しさ」が薄まった印象にはなっているが。
 本題の名波について論じる前に、服部についても論じておきたい。服部のように肉体能力を前面に押し出した(存分に知的でもあったが)守備者は、30を過ぎて肉体能力が衰えた時にどのような選手に転身するかが難しい。個人的には、服部ならば運動能力の高い若くて元気なCBと守備の中央を固める仕事が面白いと思っている。ジュビロでは、CBに同世代の田中誠、鈴木秀人がいたので、その転身は難しかったが、ヴェルディならば十分に可能性がありそうで愉しみなのだが。

 本題に戻ろう。とにかく、私の興味は名波とラモスの化学反応につきるのだ。

 結論から言えば、最終的にはこの移籍は失敗すると予想する。シーズン半ば、疲労がたまり、かつ膝の古傷の保護が必要な名波を、ラモスは必ずや不満に思うに違いない。J2は名波にはあまりに厳し過ぎるリーグ戦なのだし。さらにラモスは、己の配下にいる名波は数年前の全盛期の名波とは異なる事を咀嚼しきれず、加えて自らが30代を過ぎた時周囲の選手にいかに負荷をかけたのかを忘却していると思う。かくしてラモスは名波に対する不満を、後先考えずにマスコミに喋ってしまい、この2人の関係は崩壊すると予想せざるを得ない。

 けれども、私はこの2人が監督と選手として、過去の日本サッカーにない鮮やかな「何か」を見せてくれるのではないかと期待せずにもいられないのだ。理由は明白だ。日本サッカー史において、この2人ほどピッチ全域を見通してプレイした攻撃的な選手はいないからだ。
 30を過ぎた頃のラモス。よくサボっていたのも確かだが、一方でフィールドの全域を視野に入れ、独特のスローテンポのゲームメークを見せてくれた。独特のゆるやかだが、正確に前線に抜け出す選手にピタリと合うスルーパス。ペースを存分に落とした後に、若い頃を思い出させる全力疾走と浮き球の処理の巧さで見せる「緩と急」の妙。読売クラブを率いたぺぺ氏はラモスを「フィールド上の地図が全て見えている」と語ったと言うが、正に言いえて妙。
 一方の名波。通常は左足で速い振りの短いサイドキックでボールをはたく事でテンポを作り、ここぞと言う時に一連の短いパスと同じ振りで格段に長いスルーパス、あるいは身体を巧く捻ったロングボール。短いパスと長いパスの選択の妙は、一体いつフィールド全体を俯瞰しているのだと感心させられた。中でも、00年のアジアカップでの名波のゲームメークは(森島の飛び出しと合わせて)正に超アジアレベルだった。
 長年サッカーをやってきて、今なお、どうにも納得し難い事がある。この2人にしても、いや所謂世界のスーパースター達にしても、どうしてかくも見事にフィールド全域を見通す事ができるのだろうか。比べるのがおこがまいしのは十分理解していますけれど(笑)。
 彼らの世界を想像してみる。ボール扱いが完璧に近いので、周りを見る事に神経を回せる。常に首を振って周囲を気にするのが完全に習慣になっている。ここまでは理屈だ。しかし、ラモスや名波の域になると、おそらく周囲のほんの少しの変化を感じ取り、何がしか我々の想像もつかない全体俯瞰が、脳内で絵になっているのだろう。ぺぺ氏の言うところの「フィールド上の地図」である。その地図が、90分の時間帯に渡り色鮮やかに常に彼らの脳内にあるのだろう。
 微妙に世代の異なっていたこの2人は、花相撲でしか共にプレイしていないはずだ。私が生観戦したのは井原の引退試合くらいか。報道によると、今回の移籍は「ラモスが強く望んだもの」との事だ。ラモスも「己にしか見えなかった世界」を「見てくれる部下」と共に戦いたかったのかもしれない。
 そう考えてくると、この2人の競演は、従来の日本サッカーでは見る事のできなかった「何か」を見せてくれるのではないかと言う気がしてくるではないか。私はそれを見たいのだ。ベガルタ戦以外で。

投稿時間 2007年02月06日
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