中田の引退報道には、現時点では「もっとやって欲しい」との感想しかない。まだまだこれから老練さが身についてくる年齢だし、その豊富な経験は日本代表に残ろうが残るまいが、日本サッカーにとってまだまだ貴重な財産だから。そして、ベルマーレでもヴァンフォーレでもいいから、Jリーグで最後のプレイを見せて欲しい。
ご本人が「もうトップレベルでのプレイをする意思がない」と言うのならば、仕方がないけれど、今はただただ翻意を期待したいのだが。
もう1つ、あまり言いたくはないが、何故ワールドカップの最中に発表しなければならないのだろうか。
日本代表についての文章も色々と書きかけているのだが、少々長くなる。少しづつまとめていくもりだが、とりあえずは準々決勝の愉しさと今後の展望について書く事をご容赦いただきたい。
でもね。すばらしい試合が続いてはいるけれど、もう昔の興奮には戻れない。これがイタリア大会の頃だったら、準々決勝の4試合を味わう事で、本当に幸せな気持ちになっていただろう。でも、もうダメなのさ。俺は日本が登場するワールドカップを知ってしまった。日本戦以上の興奮は、何があっても訪れない。
まずブラジルの敗退。
さすがに驚いた。しかし、この試合での集中の無さは何だったのか。もちろんジダンはすばらしかった、ヴィエラとマケレレの2人も最高だった。前半からブラジルはこの中盤の厚みを突破する事に苦労していた。逆に言えばフランスとしては、前半ブラジルが眠っているうちに先制したいところだった。ところがブラジルの最終ラインは予想以上に強く、前半終了まではよく凌いだ。
当然ハーフタイムでブラジルは心を入れ替えて来るだろうから、試合展開は一変するものと予想された。ところが、後半早々からブラジルはもっとおかしくなっていた。開始早々のフランスのFKの守備のいい加減さには驚いた。そして、失点場面。冗談ではない、ゴール前のFKで敵FWよりも2人少ない守備者しか競りかけない、これはミスと言う言葉では語れない。怠慢としか言いようがないではないか。これでワールドカップの準々決勝に勝とう言うのか。
2人目の交代でカフーに代えてシシーニョが起用された時にわかった。パレイラ氏はシシーニョで行きたかったのだ。しかし、老カフーに引導を渡す事ができなかったのだろう。さらに、ロビーニョが登場し、ようやく技巧でフランスの強力ドイスボランチを外せるようになった。この終盤に、ロナウドが我慢して最前線に残っていれば、ロナウジーニョとロビーニョの仕掛けからもっと好機が作れ、試合はどうなったかはわからなかった。ところが、ロナウドが後方に引いてペナルティエリアより後方から挙動を開始、そうなれば1人2人は外せても、そこでつぶされてしまう。ペナルティエリアの外はロビーニョとロナウジーニョに任せればよかったのだ。
そう考えると、ロビーニョの引き出しに翻弄され、ロナウジーニョに完璧なパスを幾本も通され、シシーニョとジルベルトの両翼に蹂躙され、ジュニーニョにどうしようもないミドルシュートを決められ、ついにはロナウドにゴール前の閃きを見せ付けられたあの試合こそ、幻の「史上最強」ブラジルだったではないか。あの絶望感、恐怖感を味わう事ができたのは、我々だけだったのだ。これはこれで幸せだったのだろう。
それにしてもジダン。
大会前は引退を表明した事がマイナスになると予想したのだが、失礼いたしました。ペレとディエゴは別格として、クライフとプラティニは「驚き」を見せてくれた歴史的名手なのに対して、ジダンはベッケルバウアと並ぶ「完璧」を見せてくれた。そして、このブラジル戦で、私的ランク(いや単に偏見と印象点によるものなのですが)でとうとうジダンはプラティニを抜いてしまった。大会前は「ロナウジーニョがどこまで、2人の現人神に近づくか」に着目してのだが、一気にジダンが抜き返してきた印象すらあるな。
あと、リベリーと言う若者がいい。アンリとリベリーが前線で冴えている分だけ、8年前よりも格段に魅力あるチームだ。ただし、8年前のリザラス、チュランの両翼と比較すると、そこが落ちるのが悩みで、そこをポルトガルに付け込まれそうな気がする。
イタリアの巧緻。
いきなりザンブロッタの一撃が決まり、すっかりイタリアペースにはまってしまった。さらに後半開始早々にウクライナの猛攻を身体で張って防いだ直後に追加点。完勝だった。
攻守のバランスが取れたイタリアは、南米の2巨人とイングランドが散った現状を考えると、優勝に一番近い。
24年前、パオロ・ロッシが爆発を開始したのは、例のジーコやトニーニョ・セレーゾらのブラジルを倒した試合で、事実上の準々決勝だった。残りの準決勝、決勝でもロッシ同様トニが輝く雰囲気が出てきた。ピルロとトッティの妙技はアントニョーニとコンティを、ガットゥーゾの献身はベネッティを、ザンブロッタの融通性と上下動はタルデリ(いや、私はこのタルデリが大好きだった)を、それぞれ彷彿させるではないか。そして、さらに言えば、カンナバーロは、ありとあらゆる手段(今日では即退場になっているだろうが)でディエゴやジーコやリトバルスキを潰したジェンチーレよりも、格段にフェアで強力な守備者だ。満面の笑みでワールドカップを掲げる「史上最高のストッパ」を見てみたい気もする。
ウクライナはここまで来た所でいっぱいだったのだろう。
ただ、私はあのスイスとの名勝負を生観戦し、大観衆とともにケセラセラを歌う事ができたので、シェフチェンコと仲間たちを忘れる事は決してない。
歴史に残る珍采配に散ったアルゼンチン。
全く理解できないペケルマン氏の采配だった。後半開始早々にCKから先制して守備を固めるのは理解できる。そして、事実ドイツは押し気味になっても、ラストパスの精度は高くなく、コロッチーニ、アジャラ、エインセ、ソリンと並ぶ強力守備陣がほとんどシュート前に止める事ができていた。カンビアッソを入れてさらに蓋をして、空中戦対策にクルスを入れるのは論理的には正しい。でも、完璧に守っていたのだから、あれ以上守備を強化する意味は少なかった。
さらに、ドイツを舐めるのは拙かろう。ドイツのよさは両翼のいずれかに拠点を作り、精度に難があっても、複数の選手が飛び込んで来る事。少なくとも「交通事故」よりは大きな確率で得点する可能性はあった。アボンダンシエリの負傷は不運だったが、リケルメかクレスポのいずれかを残しておけばよかった。そうすれば、もう1枚カードが残り、メッシを起用して再勝負ができ、相当の確率で勝つ事ができたのではないか。
メッシもサビオラもアイマールも使わずに、明らかに戦闘能力で劣勢の地元国に、真綿で首を絞められるように負けていくチームを、アルゼンチンのサポータはどのような想いで観ていたのだろうか。これはこれで、極めて高級な敗北感だろうが。
淡々と戦い、敵失を導き勝ち進む伝統のドイツ。
日本戦を含む大会前の準備試合、いや序盤戦の戦いぶりを含めて、とてもではないが上位進出は難しそうだったドイツが、とうとうここまで来てしまった。80年代にプラティニ将軍の前に立ち塞がった、「空気の読めない」ドイツを久々に見る感もある。いかにもドイツらしい進出と言えるし、このように勝ち進むドイツがいるのはいかにもワールドカップらしいとも言える。
上位に進むにつれ、脆弱だったセンタバックがそれなりに対応するようになっており、バラック、クローゼ、レーマンらを中心にチームのまとまりも最高。とは言え、イタリアに勝つのは相当難しいと思う。
イングランドサポータは悔しいだろうな。
ここまでバランスが取れ、選手層の厚いイングランドは記憶にない。ベッカムが壊れたと思ったら、レノンが登場し、ある意味ではベッカム以上のえぐりを見せる。オーウェンの離脱、ルーニーの退場で、登場したクラウチは、すばらしい運動量で前線で持ちこたえる。もちろん、ランパード、ジェラード、両コール、ファーディナンド、ハーグリーブスそしてテリー。穴がないどころか、いずれもワールドクラス。
1人少なくなった後も、「ここぞ」と言う時には後方の選手が押し上げ、決定機を演出したのも大したものだった。
ランパードとジェラードが並立した今大会は、間違いなく「40年ぶり」の絶好機だったのだが。
ただしPK戦の順番には疑問。今大会「シュート運」がなかったランパードのトップ起用と、(本来は最初や最後に蹴るべき「格」を持つ)ジェラードの3番目起用は、納得できなかった。
1つ余談。ベッカムがベンチで泣いていたのは退場直後。PK戦後は毅然として、打ちひしがれる仲間を励ましていた。それなのに、日本のTV局はPK戦後にベッカムが泣いていたように恣意的に編集していた。今に始まった事ではないが残念。
無論、ポルトガルが見事だったのだが。
特に感心したのは、1人多くなってからの冷静なボール回し。DFとMF8人がペナルティエリアに入って守るイングランドに対して、不用意な縦パスをいれずに横パスと両翼展開で崩そうとした。デコの不在は大きく、崩しきれなかったが、イングランドの逆襲機会を最小限に押さえた猛攻は美しかった。
ジェラードのセンタリングに対し、20cmの身長差にも関わらず競り勝ったミゲル、見事な読みとカバーリングを見せたメイラなど、守備ラインも強力。
ベンチに下がっても、献身的に若者たちを励ますフィーゴ、そのような「立派な」姿勢は似合わないが、本当に格好いい。
PK戦にしても、最後に若きクリスティアン・ロナウドを起用するのが心憎かった。クリスティアン・ロナウドは、冷静そのものに勝負を決めた。この若者は4年後に大変な存在になっているかもしれない。
唯一不足しているのは、敵陣にボールをねじ込むストライカ。パウレタもポステガもいいけれど、私の好きなヌノ・ゴメスは登場しないのだろうか。
ポルトガルのサッカーは好きだ。高度な技術と連携による落ち着いたボールキープ、全員の献身的な運動量、我々が目指すべきスタイルを示唆しているようにすら思えるせいだろうか。フランスはさておき、イタリアに勝つのは難しいと思う。そして、カンナバーロの歓喜も是非見たい。しかし、サッカーの好みとしては、ポルトガルに優勝して欲しいのだが。
